乱高下

NYダウ乱高下の本当のわけ――欧州財政危機・不安感に乗じて儲ける勢力(1) - 11/10/12 | 12:18

 8月以降、株価の乱高下が激しい。ニューヨーク・ダウは毎日200ドル以上も、上がったり下がったりしている。これは欧州の財政危機が理由だと言われているが、それは5%ぐらいしか正しくない。株価乱高下の95%の理由は別のところにある。それは何かを考えてみよう。

 株価の動きをもう少し詳しく見ると、株価の水準自体は7月後半から8月初旬にかけて大きく下がった後、モミ合っており、そこから大きく水準を落としているわけではない。8月8日以降は、1日の中での変動幅も異常なくらい大きくなっている。
 
 たとえば10月4日には250ドルも下がった後、少し戻し、その後再び下がり始めたが、最後の40分で一気に400ドル以上も上げ、前日比プラス153ドルとなった。そして出来高は大きく膨らんでおり、何か事件や発表があったときだけでなく、普通の日であっても出来高が7月以前より大きく膨らんでいる。

 現象を整理すると、次のようになる。

(1)乱高下が長期に(2カ月)続いており、毎日大きく上下する。
(2)しかし、水準自体は切り下がっているわけではない。
(3)1日の中での動きが激しい。
(4)しかも、大きくプラスとなってから大きくマイナスに転じることが多い。
(5)取引量が恒常的に増加した。

 (1)について重要なことは、長期に乱高下が続いていることだ。この期間に、先行き見通しが悪化し続けたかというと、そうではない。もしそうなら、株価が一直線に下落するはずだ。今、悪化しているのは先行きの見通しではなく、不安の度合いだ。不安がさらに増しているから、同じ意味のニュースが出るたびに、悪ければ暴落し、政策対応が出れば大きく戻す。しかし、実態は何も変わっていない。

1 2 3 4 次へ

qqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqq

欧州財政危機は、今後ずっと危機であり、何らかの形で借金返済の負担をしつつ、長期の停滞に備えるだけのことだ。そして、金融機関を中心にディレバレッジ、つまり、負債を利用した投資が高まっていたのを元に戻していくしかない。この実態はリーマンショック後から何も変わっていないのだ。

 乱高下は、危機が現実味を帯び、近づいてきたために、恐怖感が高まりやすい状況になっているからだ。したがって、(2)で指摘したように、水準が下がり続けるわけではないのである。実態がどんどん悪くなり、悪くなるたびに新しいニュースが出るのではなく、これまで言われてきたスペイン、イタリアの危機の可能性を何度も繰り返し話題にしているだけのことなのだ。
 
 ギリシャの問題は動いているが、ギリシャがどうなるかではなく、今後、スペイン、イタリアがどうなるかが問題だとすると、今は、どうなるかという見通しに対する不安が高まっているだけの状況なのである。
 
 つまり、ダメだ、という意見が増えているのではなく、あるときは「もうダメだ」ということになり、次には「やっぱり何とかなるかも」というこの2つの心理の間を揺れ動いているだけなのだ。

 こうなると利益を得るチャンスが出てくる。人々は不安の高まりで動いているから、そこを刺激してやればよい。ネガティブな実態の状況を再確認するニュースが出たら、不安が高まる。不安だからどこまで不安になればいいのかわからない。そこをあおれば、さらに不安が高まり、株価などもオーバーシュートし、極端に下落する。
 
 ニュースを大げさに悲観的にコメントすることにより、不安をあおるのも一法だが、いちばん効果的なのは、実際に株価が暴落することだ。したがって、市場に影響力を持つことができるトレーダーは大きく売って、振れ幅を大きくし、買い戻しで利益を上げることができると考え、行動する。この動きが(3)の現象をもたらしていると考えられる。

前へ 1 2 3 4 次へ
qqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqq
 (4)と(5)は、この推測を裏付ける現象だ。デイトレードの動きが加速し、アルゴリズム取引(コンピュータプログラムによる売買)による裁定取引と言えば聞こえはいいが、多くの部分は、このようにモーメンタムを作る取引である可能性がある。(5)はこれを裏付けるものであり、今後もこの傾向は続くだろう。利益機会の少なくなった投資銀行、ファンドにとっては、まさに貴重な収入源となる。

 (4)の現象は興味深いが(あるいは異様であるが)、これも不安心理というものを考えてみればわかる。不安とは、気持ちが揺れ動くことだ。市場の見方も同じだ。不安がさらに高まれば、売りが殺到し、一気に下落する。しかし、それは不安から来ているから、不安が高まりすぎたのではないか、弱気すぎるのではないか、という逆の不安が高まる。気持ちが揺れ動く、それが不安というものだ。だから、下げすぎた反動で今度は何かちょっとしたプラスのニュースがあれば大きく戻す。

 実態が変わらないのに(もともと悪い環境の中で、それを裏付けるニュースが出た状況)、株価が一気に下落すると、損失を限定するために慌てて損切りをする(個人投資家向けのほとんどのアドバイス損切りを勧める)。逆に戻り始めると、不安になりすぎて売る必要がないのに売ってしまったという後悔の念にさいなまれているため、株価が下落からプラスに転じようものなら、悪材料出尽くしなどという市場の声とやらの報道にも刺激され、買い戻してしまう。そして買いの流れができたところで、再び株価が下落に転じれば、買い戻した人々の精神状態たるや、惨憺たるものになってくる。

 つまり、現在の状況は、このようなデイトレード機関投資家、ファンドが急増させている状況で、その結果、取引量が急増し、株価も毎日乱高下するだけでなく、1日の中でも乱高下することになっている。したがって、1日の中での乱高下が継続する、というのは、市場そのものが危険な状態になっているのではなく、それを利用して儲けるようとしている動きが加速していると考えたほうがいいのだ。

前へ 1 2 3 4 次へ
qqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqq
もちろん、背景には欧州財政危機、欧州銀行危機がある。それがなければ、不安になりにくいから、それが5%程度は理由となっているといえるだろう。しかし、それだけなら、株価が大きく下がって、その後ずっと停滞し、取引高もほとんどなくなる、すなわち、株式市場は死んだ、というような状態になるのが普通だ。
 
 欧州危機はリーマンショック当時から予想されたとおり、あまりに予想通りに動いている。その中で、相場が乱高下するのは、金融市場の側の勝手な都合があるのである。

小幡績(おばた・せき)
株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省、1999年退職。2001〜03年一橋大学経済研究所専任講師。2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授。01年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)がある。